超音波振動を利用した非接触ハンドリング装置によるフラットパネル基板の搬送(第2報)

−把持機構を用いたハンドリング装置の開発−

1. 緒   言
 近年、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの平面基板や半導体ウェハの大型化が進んでいる.基板の大型化は,面積が大きくなるが厚みは変わらないために,基板は相対的にたわみやすく,壊れやすくなっている.従来のローラコンベア式搬送では,基板質量の増加に伴う破損を防ぐために,ローラの数を増やすことによって接触圧力を下げる必要がある.その結果,ローラの正確な高さ調整や次工程への引き渡しにおいてコンベア同士の高精度な速度協調制御が必要となる.一方,パレットサイズの大型化を余儀なくされる.また,集積回路の技術も進歩し,高度な清浄度の管理が要求される.したがって,これらの問題を解決するために,基板やウェハなどを完全非接触で搬送し,ハンドリングする機構1),2)の開発が望まれている.
本報告では,非接触ハンドリング機構を提案し,基板を非接触で把持する機構に関して,前報3)の把持力と異なる基礎特性および搬送時の特性を測定したので報告する.

2.非接触把持原理と非接触把持ユニット
 図1に把持ユニットの構造解析結果を示す.アルミニウム製の矩形振動板(32×20×6o)は,コニカルホーンを介してボルト締めランジュバン振動子(駆動周波数:28kHz)で励振される.コニカルホーンは,振動振幅を拡大すると同時に,ランジュバン振動子と振動板を連結するために用いられる.この振動板は,周波数28kHzで長手方向に1次の曲げモードを有し,両端と中央部が腹となる.基盤の把持では,基板と振動板の重なり幅が8oの位置,すなわち基板の端と振動板の節が一致する位置が安定位置であった.



fig.1 Horn and Oscillating plate

 非接触把持の原理を図2に示す.振動面上の物体にずれが生じた場合,物体端部の平均圧力が負となり,物体を振動面内に引き戻す力,すなわち非接触の把持力が作用することになる.物体端部の負圧は,主に空気が隙間から流れ出す際に物体端部の曲がり流れによって生成される渦と,隙間内に空気が吸い込まれる際に生じる端部に沿う流れによるものである.この原理を用いて,基板を把持し非接触ハンドリング装置の開発を行なう.

3.非接触搬送装置
 図3に非接触ハンドリング装置の原理を説明する.基板は,搬送路の下部に設けた静圧テーブルからの空気静圧力によって,非接触で浮揚する.基板の上面には,わずかな隙間を介して把持ユニットの振動板を適当な位置に配置する.ここで,ボルト締めランジュバン振動子によって励振された振動板により,基板は把持ユニットに把持される.この状態で,把持ユニットを移動させることで,基板は把持ユニットに追従して移動する.本研究において,図4に示すように,□150×厚さ0.3oの多結晶シリコン基盤を直線搬送する装置を作成した.基板は静圧テーブルによって浮揚し,把持ユニットはテーブルの両側に配列されたLMガイドとボールねじによって,]方向のみ移動する.これより,基板は把持ユニットに追従し搬送される.ここでは,ボールねじを用いた直線搬送する機構を構築したが,把持ユニットをロボットハンドのエンドエフェクタに用いれば,基板を水平面内において自由にハンドリングできると考えられる.




4.非接触把持ユニット基礎特性
4.1 安定位置復元時の動的挙動とばね定数
非接触把持ユニットは,安定した把持を得るためには多大な影響を及ぼす.そのため,非接触把持ユニットの基礎特性を測定することで,非接触搬送に最適な把持条件を模索する.
まず,測定した特性は把持ユニットのバネ定数である.非接触把持において基板が安定位置からずれた場合,安定位置に復元しようとする動きが見られる.この時基板は.減衰しながらばねのように安定位置に静止する.この復元挙動である振動減衰性の測定を行い,復元時のばね定数を算出した.また,静的,動的なばね定数の両方の測定を行なった.
図5に静的ばね定数の測定方法の概略図を示す.基板は把持ユニット1個で把持を行う.測定に用いた基板は,□150×厚さ0.3mmの多結晶シリコンウェハで,質量16.5g,表面粗さ2.1μmRaである.把持している基板に絹糸を取り付け,ベアリングを介しておもりを付ける.このおもりをロードセルに乗せ,下方に下げることで負荷をかける.そして,安定位置(振動の節)から基板の端が−1.5mmずらした.この状態から絹糸を,外乱力を加えないように火を焼き切り,基板が安定位置に戻る挙動を測定した.測定した結果から計算を行い,ばね定数を算出した.挙動を測定するためには,渦電流式変位センサ(KEYENCE製)を用いた.また,測定のため基板中央付近に検出体としてブロックゲージを立てて置いた.次に,図6には動的ばね定数の測定方法の概略図を示す.動的ばね定数は,把持ユニット4枚で実際に搬送を行い,停止の際の基板の挙動を測定しばね定数を計算した.搬送は,定常速度25.0mm/s,加減速1000mm/s2,搬送距離400mmで行った.静的ばね定数の時と同様に挙動測定には渦電流式変位センサを用いた.浮揚している基板上前方には,測定のための検出体を置く.基板の動きを考慮し検出体とセンサの距離は接触させず,適当な距離をあけ調整を行なった.この調整を行なった点をゼロ点とし,ゼロ点から−方向に50oの水平移動をさせ,その地点から再度+方向に50oの搬送を行った.この時の挙動を測定した.

図7に静的な振動減衰性,図8に動的な振動減衰性の測定結果を示す.測定した結果から,把持ユニット1個の基板が安定位置に復元する際の静的なばね定数は,21.99 N/mであることがわかった.また,動的なばね定数は,加減速1000 mm/s2で41.55 N/mであることがわかった.動的ばね定数において,基板前方に把持ユニットが2個存在するので,把持ユニット2個を並列に置いた際のばね定数だと考えられる.このことから,動的ばね定数は,静的ばね定数の約2倍になっていることがわかる.そのため,把持ユニット1個のばね定数は,測定条件が変化してもほぼ一定であることがわかった.




4.2 振動板Z軸方向押し付け力算出
 次に,振動板のZ軸方向の押し付け力を算出した.基板を把持する際,基板は振動板から発生する圧力によって,傾くあるいは変形する.この基板の傾き,変形は把持に影響を与えることがわかってきた.そのため,その時の振動板からの圧力,つまりZ軸への押し付けを算出した.
 図9に測定方法の概略図を示す.まず,非接触把持ユニット1個で基板の把持を行った.ここで使用した基板は,□150×厚さ0.7mmのガラスである.押付力は,把持した状態でレーザー変位センサ(KEYENCE製)を用いて基板の浮上量を測定し,基板変形量を算出する.次に把持ユニットで把持していた箇所と同様な場所に3.75gのおもりを1個ずつ乗せていき,浮上量を測定し基板変形量を算出する.おもりを乗せての測定は,把持するものがなく安定しないので基板の四方にガイドを置き動かないようにして行った.把持ユニットでの把持時とおもりをのせていった時の基板変形量を比較し,把持時と同程度の基板変形量のおもりの質量を押し受け力とした.浮上量の測定は,静圧テーブルからの空気供給を止め基板を静圧テーブルに接地させる.その状態をゼロ点とし,そこから空気供給を行い,基板を浮上させる.その時の基板の浮上量,つまり基板底面と静圧テーブルのすき間を測定した.また測定点には,厚さ0.05mmのシムテープを貼り付けた.これは,実験に使用したレーザー変位センサのレーザー光がガラスを認識せず透過してしまうため軽量で薄いシムテープを貼付け反射体として用いた.測定点は,5点で図10に示す.
押し付け力の測定結果を図11上図に示す.これらの結果から把持ユニットでの把持時とおもり3個をのせたときの11.27gfでのガラス変形量が近似していることがわかった.また,図11下図にのせたおもりの重量とガラスの傾きの関係を示す.




4.3 基板の搬送特性
 図12に示す方法で搬送を行い,基板の動特性測定を行った.空気静圧テーブルによって浮揚している多結晶シリコン基板(□150×厚さ0.3o,質量16.5g,表面粗さ2.1μmRa)を,隙間を介して設置した振動板によって非接触把持する.測定には渦電流式変位センサ(KEYENCE製)を用いた.浮揚している基板上中央には,測定のための検出体を置く.振動板の動きを考慮し検出体とセンサの距離は接触させず,適当な距離をあけ調整を行なう.この調整を行なった点をゼロ点とし,ゼロ点から+方向に50oの水平移動をさせ,その地点から再度−方向に50oの搬送を行うことで基板の静止位置の測定を行った.測定条件として,表1に示す速度を変化,減速度を変化させたもので行なった.測定結果を図13に示す.図13(a)は減速度一定で速度を変化させた結果,図13(b)は速度一定で減速度を変化させた結果を表す.一回目の測定結果を示すが,実際には同条件で10回の測定を行い,繰り返し位置決め精度の測定も行った.繰り返し位置決め精度の結果を図14に示す.繰り返し位置決め精度は,速度変化,減速度変化の両方において±100μmの範囲内になった.静止位置のずれは基板上に回路を形成するなどの製造プロセスにおいて問題となるため,実用化に向けて繰り返し位置決め精度を5μm程度まで小さくしたい.しかし,静止時の安定性は,凵}5μmであり,実用化に向け期待できる値となった.これらの結果から今後の課題として,静止位置のばらつきを小さくするために,まず把持力を上げる必要がある.そのため,今後新たにホーン及び振動板の設計・解析を行い,把持力をあげることで更なる実用化に向けての検証を行なう.