超音波振動する砥石を用いた金型表面仕上げ

 

1.    概要

 

現在,プラスチック成型用金型の最終仕上げである切削,研削痕除去や表面の鏡面仕上げのほとんどは,熟練作業者による手作業によって行われています.しかし,手作業による最終仕上げは金型の生産性の向上や,表面性状を改善する上で障害となっています.そこで,本研究では超音波振動援用加工に着目しました.この超音波援用加工は,潤滑効果や切り屑の排出といった,様々な効果をもっています.

本研究では,超音波振動を援用し,金型表面仕上げの機械化を試みました.高効率かつ良好な表面性状を得るために,ボルト締めランジュバン振動子とアルミナ繊維砥石を用いた超音波ポリッシング装置を試作し,装置の性能を表面粗さにより評価しました.

 

 

2.    加工原理

 

 

超音波とは,一般に振動の周波数が20kHzを超えるものを指します.ここで述べる超音波振動する工具による加工は,工具を超音波領域(20kHz以上)で励振させた加工法です.工具が振動する事により,工具はワークと接触・非接触を繰り返し,断続的な加工が行われます.これは「のみ」と「金槌」で木を彫る加工法に相当し,一般にハンマリング効果といわれています.その結果,工具とワークが衝突することで,効率的に加工を行うことができるのです.

 

 

 

 

3.    実験装置

 

 

本研究で試作した超音波ラッピング装置を示します.超音波振動発生素子としてボルト締めランジュバン振動子を使用しています.この振動子の共振周波数は28±0.5kHzで軸方向に縦振動します.ランジュバン振動子にストレートホーンを取り付け,工具である砥石はホーン先端に取り付けてあります.無負荷時の砥石先端における縦振動の片振幅は,約7.5μmです.

本装置の特長を以下に示します.

1.  砥石を非回転式とすることにより,装置全体の構造の簡略化を可能としました.

2.  カウンターウェイト方式の採用により,本装置は接触圧力を任意に設定可能としています.

3.  上下案内機構により,加工面に対して柔軟に追従でき,最大ストロークは15mmとなっています.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


また,加工の際に砥石は図のように移動させます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


4.    加工条件の選定

 

 

・実験計画法の利用

 

本装置を用いて金型表面を効率的に加工し,よい表面を得るためには,送り速度などの多くの加工条件を決定しなくてはいけません.そこで,本研究では実験計画方による最適加工条件の推定を行いました.「接触圧力」,「送り速度」,「ステップオーバー」,「超音波振動振幅」を制御因子としてSN比によりこれらの最適値を推定しました.実験に用いた各制御因子に対する水準を以下に示します.

 

Factor

Level 1

Level 2

Level 3

Contact pressure MPa

0.25

11.1

22.3

Feed rate mm/min

100

800

1600

Step over mm

0.05

0.5

1.0

Vibration amplitude μm

7.5

2.3

0

 

 

 

実験計画法によって推定された最適加工条件を以下に示します.

 

Contact pressure MPa

11.1

Feed rate mm/min

1600

Step over mm

0.05

Vibration amplitude μm

2.3

 

 

 

 

5.    各制御因子の表面粗さに及ぼす影響

 

 

 

推定された加工条件を基に,実際の加工条件を決定するために各制御因子を変化させた時の表面粗さ変化を調べました.

 

 

5.1. 接触圧力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


接触圧力が大きい場合と小さい場合には,表面粗さが大きいことが分かります.このことから,接触圧力には最適値が存在することがわかり,この実験での最適値は13.5MPa程度であることが分かります.

 

 

 

5.2. 送り速度

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


送り速度を変化させると,極端に遅い場合に表面粗さの悪化が見られました.しかし,送り速度を速くしても表面粗さの悪化は見られません.このことから,加工時間を少しでも短縮できるよう,より速い2000mm/minが適していると考えられます.

 

 

 

5.3. ステップオーバー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ステップオーバーを変化させると,小さいほど表面粗さ良いという結果を得ました.表面粗さを改善するためには小さいステップオーバーを選択すればよいことになるのですが,そうすると,どうしても加工時間が長くなってしまう問題があります.そこで,加工時間の増加を抑え,表面粗さの改善が望める,0.05mmを本研究では選択しました.

 

 

5.4. 砥石振動振幅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 上図は,接触圧力を与えた時の砥石の振動を,高速度カメラで側面から観察したものです.このときの振動振幅は約5.9μmで,無負荷時の振動振幅に比べ減少してしまいました.このことから,接触圧力を大きくすると振動振幅が減少してしまい,超音波加工の利点を得られなくなる可能性があるため,振動振幅は最大の7.5μmとしました.

 

 

これらの実験から,本研究における最適加工条件を以下のように決定しました.

 

Contact pressure

 13.5 MPa

Feed rate

2000 mm/min

Step over

0.05 mm

Vibration amplitude

7.5 μm

Tool

Alumina fiber grinding stone #1000

 

 

 

 

6.    加工結果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


上から,加工前の表面粗さ,本装置による加工表面粗さ,手仕上げによる加工表面粗さを示します.これらを比較すると,本装置により表面粗さは大きく改善できていることが分かります.また,手仕上げによる加工表面に比べても遜色無く,本装置は十分が加工性能を持っていることが確認できました.また,本装置による加工では,手仕上げの際には行われている,砥石とサンドペーパによる粗加工を行う必要が無く,加工工程の削減も加工となりました.