アクティブ超音波非接触モータ


ラジアルスクイーズ空気軸受の短所

まず,これまでに開発してきたラジアルスクイーズ軸受の短所を以下に述べる.
 1)駆動周波数は1〜2kHzであるために、その駆動音は可聴域となる。
 2)軸受面を積層型圧電素子で直接励振するために、軸受面を高い精度で案内する機構が必要である。
 3)回転駆動トルクを伝達する方法にも非接触式が望まれる.
これらの欠点を克服するために、薄肉円管のたわみ振動を用いた超音波非接触モータを提案した。


薄肉円管の定在波たわみ振動

中央の「被浮上軸」の回りに、薄肉の円管を配置して、これを「軸受」とする。そして、軸受を四方向から圧電素子で励振すると、定在波たわみ振動が発生する。ここで、円管のたわみ振動に関する式も図中に示している。設計仕様として、駆動周波数は超音波領域とし、圧電素子の発生力(最大で約80kgf)で数μm程度の変位が得られるコンプライアンスとする。また、圧電素子を用いてx-y方向への微小位置決めを考慮すると、x-y方向へ独立に制御する方法が容易であると考えられるので、モード次数は4の倍数と設定すると、振動モード:8次、共振周波数22.6kHz、円管の直径φ70、肉厚2mmとなった。


そして、各圧電素子を同相の正弦波で振動させると・・・


※↑画像にカーソルを載せてください。↑※
8次モードの定在波たわみ振動が発生します。ある、一部分に注目すると、円管が半径方向に近づいたり、離れたりしている。したがって、この運動がスクイーズ効果によって負荷容量を発生させ、軸を浮上させることができる。
また、共振現象を利用することで、駆動エネルギを小さくすることができる。


超音波モータの原理
ここで実験において,偶然にも浮上軸が定常回転する現象が確認された。完全に定在波しか発生していない場合には、いかなる回転トルクも発生しないはずであるが、なんらかのアンバランス(圧電素子の位置ずれや特性のばらつき、駆動信号の位相差など)によって、たわみ進行波が発生したと考えられる。そこで、進行波の発生理論に基づき、圧電素子の配置と駆動信号を変更する。すなわち、・・・



※↑画像にカーソルを載せてください。↑※

これ以降、モータを考えて浮上軸→ロータ、軸受→ステータと読み替える。
一対の圧電素子を、たわみ振動の波長の1/4だけずらして配置する。
(備考) 波長(度)/4=360(度)/8(次)/4=11.25度
そして、駆動信号についても、位相を90度だけずらして駆動すると、ステータに周方向のたわみ進行波が発生し、ロータは反時計方向に回転する。その理論については、こちらに詳細な理論と実験が行われている。
また、駆動パターンをcos2πft→−cos2πftにすることで、逆方向への回転も可能である。

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下図は,圧電素子の駆動信号の位相差による,ロータの回転速度の変化を示す.これより,位相差によってロータの回転速度を正転から逆転まで,任意に設定できる.また,ある位相差の範囲においては,ロータが回転しないデッドゾーンが存在することがわかった.この領域においては,ロータは回転していないが,超音波音響圧によって浮上状態は保たれている.


運動誤差の実時間補正
この研究では、高精度な回転軸系を構築することを目的とするので、半径方向への運動誤差を測定した。
左は、ここで提案した超音波進行波型超音波モータの測定結果、右は振動パッドを直接振動させるタイプの実験結果である。(駆動条件は図中に併記) 
(注)左右の図は,スケールサイズが異なることに注意してください・・・

これより、薄肉円管をステータとして用いて、駆動周波数を超音波領域としたことで、以下の利点があったと考えられる。
・ロータの全周に渡って均一な圧力が発生するので、負荷力の方向性がない
・駆動周波数が、ロータの質量−空気膜のバネからなる系の共振周波数よりも十分高いので、加振力がロータを振動させにくい

次に、ローターを非接触で微動させる方法を以下に示す。


すなわち、円管の超音波たわみ振動によってロータが浮上している状態で、ステータの位置を積層型圧電素子によって微動させる。その結果、ロータはその動きに追従して移動することになる。積層型圧電素子は、本質的にサブマイクロ〜ナノメートルオーダの変位制御が可能である。したがって、この原理によって非接触でロータの位置を高分解能で移動することが可能になる。
下図は、ロータをx方向に0.15μmだけステップ送りしたときの、ロータの変位変化を示す。これより、整定時間0.02秒で送り動作が可能であることがわかった。
ただし、50Hzの低周波振動によって、ステップ送り幅が制限されている。この原因を明らかにする必要がある。



上記の原理に基づいて,半径方向運動誤差の実時間補正を行った.すなわち,運動誤差が検出された場合,誤差と逆方向にロータを押し(引き)戻すことによって,ロータを仮想的な中心に維持する.誤差補正がない場合には,±0.6〜0.8μm程度の運動誤差が検出された.そして,実時間運動誤差補正を行った結果,運動誤差は±0.13μm以内となり,サブミクロンオーダの運動精度が達成された.