磯部研究室では以下のような研究を行っています。
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ガラスやサファイヤなどの硬脆材料は、加工が困難な材料の一つであり,引張応力が作用すると、クラックやカケが生じる。しかし,モバイル端末などのガラスのように,穴あけや形状創成の必要性が高い素材である.ダイヤモンド電着砥石を用いた研削加工による穴あけは,加工コストや生産性の点で有意である一方,小径加工では回転運動による切削速度が不十分となり、切りくず排出も困難となる。
光弾性法によって取得した内部応力の透過情報を,CT法(コンピュータ断層撮影法)で再構成することで、局所的に作用する引張応力を三次元化,断層撮影像を得ることで,通常では見ることのできない加工穴底部での加工現象を明かにする.そして,応力を最小化する加工条件の選定や工具開発を行う。
非回転工具を用いた超音波振動援用加工に関して,切り屑生成過程や工具振幅の観察等の研究が報告されている.しかし,超音波振動は非常に高速であるため,実際に超音波援用加工中に加工域の状況を撮影,観察している報告はない.本研究では,加工現象の撮影のためにストロボ照明の原理を利用した超音波振動同期照明を開発し,非回転工具を用いた超音波振動援用切削を行うと同時に超音波切削の可視化を試みる.また,その結果より切削パラメータが切削挙動に及ぼす影響に関して調査を行う.同時に被切削面の残留応力,加工中の切削抵抗や切屑生成過程の観察により,慣用切削と比較した超音波振動援用切削の特徴を解明する.
● 研削液に超音波振動エネルギを重畳することによる加工特性向上
研削液に超音波振動のエネルギを重畳することで,キャビテーションが発生する.この雰囲気内で研削加工を行うことで,目づまりを抑制し,研削熱や研削抵抗を低減する装置を開発した.本装置は既存装置に簡便に設置できるとともに,電源を含めて廉価に作ることを目的としている.目づまりしやすいアルミ合金やチタン材を一般砥石によって継続的に研削でき,目づまりの面積は慣用研削に比べて50%以下にまで抑制された.SUS304の未熱処理材の研削加工では,自成作用による砥粒脱落が抑制され,スクラッチが減少した.
各種高機能部品の高密度化・高性能化、細密化にともなって、それらを成型する「金型の高精度微細加工技術」の開発が進んでいる.また,それと同時に,高硬度材,高融点材の成型や金型長寿命化を狙って「超硬合金での金型製作技術」への要求がますます高まっている.従来,超硬合金は放電加工によって所望の形状に削りだされる.しかし,放電加工は放電現象による局所的な溶融除去に基づく加工現象のため,加工変質層が生じる.このため,手仕上げで加工変質層を除去し,表面性状を整えているが,管理できない加工変質層が残存した場合には,金型寿命が極端に短くなる.また,これを充分に取り除くために手仕上げ量を多く取れば,角部のダレが生じたり,平面度などの幾何精度が悪化する.また,ポケットの深い金型底部の手仕上げは,作業者のカンに頼るしかない現状である.そこで本研究では,超硬合金を用いた金型を機械的に高精度仕上げ加工するために,焼結ダイヤモンド(以下,PCD)回転工具を超音波振動させ,形彫り加工を行う.超音波振動の振幅はマイクロメートルオーダであり,非常に微小である.しかし,周波数が高いので加速度は非常に大きく,たとえば振幅1μm,周波数20kHzにおける工具の瞬間最大加速度は1.6×104Gにも達する.その衝撃力は硬脆材を効率よく除去するのに適している.また,超音波振動を重畳することで,工具摩耗の抑制効果が期待できる.
近年,燃料噴射ノズルやプリント基板といった工業製品の小型化,高精度化などの要求により,サブミクロン程度の小径穴を精度良くかつ効率的に加工する必要性が高まっている.しかし,ドリル径が小さくなると,切削速度の不足やドリルの剛性が低いために折損や加工精度が悪化するといった問題が顕著になる.一方,インコネル600はNi基耐熱耐食合金であり,航空・宇宙・自動車産業等の高温環境で使用される.熱伝導率が非常に低いため,切削温度が高温になりやすく,工具寿命は著しく悪い.また工具との親和性は高く,溶着し凝着欠損しやすい.これまでに,仕様の異なる小径ドリルによる加工が報告されており,切削速度・送り速度・穴深さの検討,切削油剤の効果について評価が行われているが,加工が困難である.またインコネルに対する超音波振動援用小径ドリル加工の事例はほとんど存在しない.本研究においては,加工抵抗の低減,切屑の微細化,工具寿命の延長,表面粗さ改善などの効果が得られる超音波振動援用加工に着目し,超音波振動援用小径ドリル加工を行っている.インコネルに対する超音波振動の効果を検証することを目的として,高速度カメラを用いて加工穴入口の撮影,加工穴・工具摩耗状態・切りくずの評価,高アスペクト比微細深穴加工のための加工条件の検討を行い,工具寿命の評価を行った.
●超音波振動による難削材の旋盤加工→一関高専 原圭祐先生が継続研究中
旋削加工において,工具を超音波振動させることで,加工抵抗の低減効果が期待できる.ここでは,デモンストレーションのために,インコネルの細軸加工を実施した.
● 超音波振動を援用したダイヤモンド電着工具による超硬合金への鏡面仕上げ加工
近年,携帯電話のキーシート,自動車部品,情報家電製品などの光透過部品の需要は増大している.これらの光透過部品は金型による射出成型加工で生産されている. 本研究では,各種金型材料への適用・可能性を探るために高硬度難削材である超硬合金の鏡面仕上げ加工を試みた.超音波振動援用加工を行うことにより,最大高さ0.1mmRz以下の鏡面を得た.表面粗さは超音波振動援用加工を行うことにより向上された.これより,超硬合金への鏡面仕上げ加工の可能性を見出した.また,被加工面およびダイヤモンド砥粒摩耗,脱落状況,切屑の観察を行った.この結果から,超音波振動援用加工を行うことにより,ダイヤモンド砥粒摩耗量が低減され,工具寿命の延長が確認された.送り速度が遅い条件では,超音波振動効果が高くなり,ダイヤモンド砥粒摩耗量は小さくなった.切屑の大きさは0.5〜1 mmであり,超硬合金V30の粒径と同程度であった.
● 超音波振動を利用した非接触ハンドリング装置によるフラットパネル基板の搬送(第2報) −把持機構を用いたハンドリング装置の開発−
近年、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの平面基板や半導体ウェハの大型化が進んでいる.基板の大型化は,面積が大きくなるが厚みは変わらないために,基板は相対的にたわみやすく,壊れやすくなっている.従来のローラコンベア式搬送では,基板質量の増加に伴う破損を防ぐために,ローラの数を増やすことによって接触圧力を下げる必要がある.その結果,ローラの正確な高さ調整や次工程への引き渡しにおいてコンベア同士の高精度な速度協調制御が必要となる.一方,パレットサイズの大型化を余儀なくされる.また,集積回路の技術も進歩し,高度な清浄度の管理が要求される.したがって,これらの問題を解決するために,基板やウェハなどを完全非接触で搬送し,ハンドリングする機構1),2)の開発が望まれている. 本報告では,非接触ハンドリング機構を提案し,基板を非接触で把持する機構に関して,前報3)の把持力と異なる基礎特性および搬送時の特性を測定したので報告する.
● 機上ワイヤ放電機で成形されたPCD工具による超音波振動援用小径ドリル加工
近年,プリント基板や燃料射出ノズルなどの工業製品の高集積化・高精度化が進んでいる.そのため,直径1mm以下の小径穴加工の需要が増大している.しかし,従来の慣用小径ドリル加工は,ドリル自体の剛性の低さ,切り屑排出の困難さなどの問題を抱えている.これを解決するためのひとつの方法として,超音波振動援用加工が挙げられる.超音波振動援用加工とは工具,あるいはワークに超音波振動を付加して切削・研削加工を行う加工方法である.ドリル加工の際にも超音波振動を軸方向に付加することによって切屑排出性の向上や切削抵抗の低減ができることが実験的に明らかになっている. 鬼鞍らの研究では,ドリルに軸方向の超音波振動を付加することで切屑−すくい面間の摩擦が低減されることによる切削抵抗の減少,食付き性の向上による穴寸法精度や穴形状精度の改善,切屑流出速度の向上による排出性の改善,傾斜面へのブシュレス穴加工に対する有効性を示した. 竹山らの研究では,ドリルに軸方向の振動を付加することによるばり発生の抑制効果を明らかにした. 筆者らは,市販の小径ドリルで超音波振動援用加工の効果を確認するため,金型鋼などに対して加工を行った.だが,超音波振動を援用した場合,加工した穴の開口部でバリ・ダレが発生し,工具寿命も低下してしまった.この原因を追究するために,FEMによる周波数応答解析と振動撮影を行ったところ,工具が軸方向に振動する本来の振動モード(縦振動)ではなく,工具が曲りながら振動する曲げ振動が支配的であることがわかった. そこで,曲げ振動ではなく縦振動が支配的な形状を,機上に設置したワイヤ放電加工機により,耐チッピング性が高く難削材の加工に使用されるPCDを小径ドリルへ成形し,超音波振動援用の効果を確認した.
近年,液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネルなど平面基板や半導体ウェハの大型化が急速に進んでいる.しかし,基板厚さは変わらないために,相対的に基板は弱く,壊れやすくなっている.その一方で,回路集積化技術の進歩により,基板やウェハの清純度の管理は,より高度になっている.これら製造工程において,搬送ローラによる接触式搬送では,基板重量増加による基板の破損,汚損の可能性が高まり,搬送ローラの保守管理に対する要求が厳しいものになる.また,非接触式パレット方式による搬送においても,基板の大型化に伴ってパレットサイズを対応させなければならず,新たな非接触搬送技術の開発が望まれている.
本研究では,空気静圧力によって基板を非接触で支持すると同時に,弾性ステータの超音波たわみ進行波が励起する音響粘性力を利用して,基板に非接触でスラスト力を伝達することで,完全非接触搬送を実現する.この結果,歩留まりを向上できるだけでなく,近い将来において第8,9世代と大型化する基板の搬送を可能にする.
近年,液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネルなど平面基板や半導体ウェハの大型化が急速に進んでいる.しかし,基板厚さは変わらないために,相対的に基板は弱く,壊れやすくなっている.その一方で,回路集積化技術の進歩により,基板やウェハの清浄度の管理は,より高度になっている.これら製造工程において,搬送ローラによる接触式搬送では,基板重量増加による基板の破損,汚損の可能性が高まり,搬送ローラの保守管理に対する要求が厳しいものになる.また,非接触式パレット方式による搬送においても,基板の大型化に伴ってパレットサイズを対応させなければならず,新たな非接触搬送技術の開発が望まれている.本研究では,完全な非接触搬送を実現するため,ボルト締めランジュバン振動子(BLT)を用いた非接触搬送ガイドを提案する.BLTで励起された縦振動は,コニカルホーンにより振動振幅が拡大される.そしてホーン先端に取り付けられた振動板の,1次の曲げ振動に変換される.曲げ振動により,振動板と搬送物の間に音響粘性力が発生し,この力で搬送物を搬送路上に保持する.
現在,プラスチック成形用金型の製造工程において,研削痕除去や表面研磨といった最終仕上げ工程は熟練作業者による手作業によって行われている.しかし,手作業により表面粗さは改善するが,表面の形状が悪くなることがある.さらに,手仕上げでは作業工程が多いため,製造に多くの時間が必要となり,生産性改善の障害になっていると考えられる.そこで本研究では,より高精度な表面粗さが得られ,高い生産性が可能となるように,超音波振動援用加工を導入し最終仕上げ工程の機械化を試みた.超音波振動子には共振周波数約28kHzのボルト締めランジュバン型振動子を使用し,砥石を超音波振動させる装置を開発した.本装置による金型鋼の最終仕上げ加工実験を行い,超音波振動援用の効果及び本装置の性能を評価した.
● ダイヤモンド電着工具を用いた金型鋼の超音波振動援用正面研削
現在,射出成型金型の製作工程には手作業の研磨作業が残されている.この研磨には数日単位の時間を要し金型製作時間短縮の妨げとなる他,形状が崩れるといった問題点がある.本研究はこの研磨工程を機械加工による鏡面仕上げへ代替することを目的としている.ダイヤモンド電着工具に60kHzの軸方向超音波振動を援用し,金型鋼の正面研削を行った結果,砥粒の磨耗・脱落なく表面粗さ0.40μmRzの面仕上げを実現した.
近年,機械部品の小型化,高精度化が進んでおり,精密加工への要求が高まっているその中には硬さHRC60程の焼入鋼に対して内径0.1mm,深さ1mmの穴を高精度に多数個開けるという要求もある.そのような作業にはレーザー加工や電子ビーム加工,放電加工が用いられることが多い.しかし,それらの加工では特性上,加工速度の向上ができず生産効率上の問題となっている.これに対し加工速度・加工精度に優れるドリル加工で焼入れ鋼に直接穴を開ける事ができれば加工時間を短縮でき,かつコスト低減に繋がる.ところが小径ドリル加工では,切屑の排出性の悪さやドリルの剛性不足による折損の問題がある.これを解決するための方法として,ドリル,あるいはワークに超音波振動を付加した超音波振動援用ドリル加工を試みた.本研究でははじめにφ1mmの超硬ドリルを用いた焼入鋼への超音波振動援用ドリル加工実験を行い,その 基本的な特性を明らかにした.その結果をφ0.1mmのドリルによる実験に応用し,超音波市農園用ドリル加工の有用性を確かめた.
● 超音波振動を援用した小径工具による金型鋼の鏡面仕上げ加工
現在,プラスチック成形用金型の最終仕上げ工程は,熟練作業者により手作業で行われている. 本研究は,超音波振動援用加工を用いることによって,プラスチック成型用金型の仕上げ工程を自動化することを目的とする.ダイヤモンド砥粒の突き出し高さをそろえ,切れ刃長さを増加させるトランケーションと超音波振動援用加工を組み合わせた金型鋼への鏡面仕上げ方法を提案し,基礎実験よりその可能性を証明した.そして射出成形評価用の金型加工実験を行い,上蓋金型(60×60mm)に対する正面研削加工において,0.13?mRzの光沢面を得た.また,ボタン形状金型に対する三次元研削加工においても反射像の確認できる光沢面を得た.これより,プラスチック成型用金型の仕上げ工程を自動化し得ることが示された.
◆超音波振動により励起されるスクイーズ空気膜を用いた非接触回転駆動機構
現在、精密な測定の分野において超精密・非接触への要求が高まっており、被測定物を移動させる駆動機構の精度向上が重要である。そこで本研究ではスクイーズ空気軸受に着目し、それを改良することにより、軸を精密に回転させることを目的としている。駆動原理は、円筒型振動子を超音波領域で高周波振動させ、それによって発生するスクイーズ空気膜の粘性を用いて軸を非接触支持し、その振動を、円筒の周方向に進行する進行波にすることにより粘性進行波が発生して、軸を回転させる。それにより高精度かつ完全非接触な回転軸系を構築することができる。
◆圧電素子駆動アクティブスクイーズ空気軸受
向かい合う2枚の平板の間隔がミクロンオーダで充分に狭い場合、相対距離が正弦波的に変化すると、スクイーズ効果によって時間平均的に正の圧力が発生する。ここでは、軸受面を圧電素子により高周波振動させることで、回転軸と軸受面との間に圧力の高い空気層を発生させ、回転軸を摩擦なく支持する。また、回転軸の運動誤差を測定してフィードバック系を構築し、圧電素子を動的に制御することで、回転精度、剛性および減衰特性を高める。
◆スクイーズ空気膜を介した物体の非接触位置決め特性に関する解析
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圧電素子を利用した高精度多自由度スキャナを持つ空間座標位置測定システム
【概要】三次元空間内において、工業用ロボットハンドなどの位置や姿勢などを非接触で動的に測定することは困難である。ここでは、コーナキューブを測定対象物に取り付け、圧電素子を利用した超高精度多自由度スキャナによって、レーザー光を常にコーナキューブを通過するように追尾させる。この結果、スキャナの制御信号により測定対象物の位置を算出できる。再現性の高い粗動位置決め機構と組み合わせることで、広範囲に渡って高精度な測定を実現させる。1立方メートルの空間内で測定精度10μmを目標にする。
半導体製造装置など超精密位置決めに利用されるボールねじに対して、サブミクロン精度のリード誤差が要求されている。高精度なねじ軸は、研削加工後、ラップ仕上げされるが、従来のラップ工具ではリード誤差の修正は困難である。ここでは、多数のラップ歯を持つ新形式のラップ工具を提案し、リード誤差修正を実現する。また、熟練作業者の技術に委ねられていたラップ作業の自動化を試みる。
ボールねじ軸の有効径は、3本のピンゲージをねじ溝にはめ合わせ、相対するピン間隔をマイクロメータで測定する。これは、作業者の測定技術によるばらつきが出やすく、また離散的な測定結果しか得られない。一方、JISにおいて、ナットを回転させるトルク変動許容値が、精度等級にたいして決められているにもかかわらず、トルク変動に直接影響を与える有効径の変動を測定する装置は存在しない。そこで、ねじ軸全体にわたる有効径の変動を、連続的に高精度に測定する自動測定器の開発を試みる。
ジルコニアセラミックス製の通信用光ファイバーコネクタの加工を、ダイヤモンド電着リーマを使った加工で行うと、工具磨耗が激しく、実用的でない。そこで、高周波振動を付加して加工すると、工具磨耗が低減するほか、加工形状も改善された。本研究では、高周波振動を付加したダイヤモンド電着リーマ加工について研究し、最適加工条件の導出、各加工因子の加工への影響について調査する。